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広島高等裁判所 昭和48年(行コ)10号 判決 1975年9月17日

控訴人(原告) 大久保義春

被控訴人(被告)参加人 広島市 広島市建築主事 株式会社長崎屋

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  双方の申立

1  控訴人は「原判決を取消す。被控訴人広島市建築主事が昭和四二年広島市建築確認第二四六号をもつて参加人株式会社長崎屋に対してなした建築確認処分は無効であることを確認する。被控訴人広島市は控訴人に対し、金五〇万円およびこれに対する昭和四六年七月二二日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

2  被控訴人らおよび参加人は主文同旨の判決を求めた。

二  双方の主張と証拠関係

当事者双方の主張および証拠関係は、左記に付加するほか原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決八枚目裏三行目に「被告」とあるのを「被害」と、一〇枚目表五行目に「黒川隆一」とあるのを「黒河隆一」と訂正する。)から、これを引用する。

控訴人の主張

被控訴人広島市建築主事は、本件建築確認処分をするに際しては、当該建築物の敷地の現況、或いは同土地に対し第三者が使用権を有するか否かの点などを調査すべきであるのに、これをなさず、たんに建築確認申請者が提出した書面上の審査のみで、本件建築確認処分をしたのは違法である。

理由

一  本案前の主張について

まず、控訴人の訴えの利益について検討するに、建築基準法(昭和四三年法第一〇一号による改正前のもの、以下たんに法と呼ぶ)六条一項は、建築主が同項第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合には、当該工事に着手する前に、当該工事の計画が当該建築物の敷地、構造および建築設備に関する法律並びにこれに基く命令および条例の規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受けなければならない旨を規定し、その具体的基準については、同法および同法施行令などに定められている。

しかして、法が右規制を設けている趣旨は、直接には、健全な建築秩序を確保し、一般的な火災危険の防止、生活環境の保全等という公共の利益の維持増進にその目的があることは同法一条の規定により明らかであるが、この場合における公共の利益は、具体的には、建築主または近隣居住者の採光、通風、住居の静ひつという生活環境の保全または火災における安全の保護ということを離れては考えられず、近隣居住者の生命、健康を保護し、火災等の危険から守ることが、とりもなおさず公共の利益に合致するものということができる。そして、右建築規制法規は、これが右近隣居住者の採光、通風、生活環境の保全、防火に寄与する限度において、公共の利益と同時に近隣居住者の右個人的利益をも保障する趣旨と解すべきである。

してみれば、本来建築確認を受けられない筈の違法建築により、生活環境上の悪影響あるいは火災の危険等を感ずる近隣居住者は、個人の法的利益を害されたものとして、右建築確認処分の無効確認を求めうる法律上の利益を有するものというべきである。

ところで、本件においては、控訴人が本件建築物に隣接する家屋に居住していることは被控訴人らにおいて明らかに争わないところであり、原審における証人黒河隆一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、同号証の二によれば、本件建築確認処分の対象となる建築物は、増築後の一階面積四七七・六五平方メートルの木造二階建店舗および事務所であることが認められるので、違法な建築確認によつて右建築物が施工完成された場合には、控訴人はこれにより日常の生活環境上の悪影響をうけ、あるいは火災等の不測の危険にさらされるおそれがないとはいい得ないというべきである。

そして、この危険の排除は、その性質上、当該処分の存否またはその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴によつてその目的を達し得ないものと解されるので、控訴人は、本訴につき行政事件訴訟法三六条に定める当事者適格を有するものと認めるのが相当である。

二  本案について

当裁判所も控訴人の被控訴人らに対する本訴請求をいずれも失当として棄却すべきものとするが、その理由は左記に付加、訂正するほか、原判決一二枚目表二行目から一八枚目表八行目までに説示するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一二枚目表五行目に「前記乙第一号証の一」とあるのを「原審における証人黒河隆一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、同号証の二」と、一五枚目表一〇行目と一六枚目表九行目に「黒川隆一」とあるのを「黒河隆一」と、一五枚目裏七行目に「残存させる」とあるのを「一部除去した残部の六二・七平方メートルを存置する」と、それぞれ訂正する。

2  原判決一三枚目裏六行目の末尾に、左記のとおり付加する。

即ち、建築主事の確認は、確認申請書に明示されている事項について、申請建築物の計画が建築基準法などの法令が定める客観的基準に適合するかどうかを判断するものであつて、右建築確認に際し、建築主事は、申請建築物の敷地を現地調査したり、また同土地に対する所有権、使用権の有無を調査することは要件ではなく、申請書の記載と現地の状況または真実の権利関係が合致していなかつたとしても、これにより建築確認の処分自体が直ちに違法となるものではない。

3  原判決一七枚目表九行目の次に、左記のとおり挿入する。

仮に、控訴人主張のように建ぺい率算定の基準となる敷地面積は、登記簿謄本の記載の地積によるとしても、本件建築物の敷地、即ち、別紙(一)の<1>ないし<6>の各土地の合計地積は控訴人主張の計九三三・八四平方メートルとなるところ、本件建築確認申請において、申請建築物の面積は四七七・六五平方メートル、残存倉庫(別紙(二)記載の建物)の面積が六二・七平方メートル、以上合計五四〇・三五平方米として、確認申請がなされていることは前認定のとおりであるから、これによつて建ぺい率の合否を算出すると

建築可能面積(933.84-30)×0.6=5423.040

542.3040-540.35=1.9540

となり、建ぺい率に違反しないこと明らかである。

もつとも、成立に争いがない甲第三号証の二によれば、後日完成した本件建築物の登記簿上の一階床面積は四八三・三〇平方メートルと記載され、前記確認申請の際の申請建築物面積より五・六五平方メートル広いことが認められるので、右事実から別個の問題が生ずる余地が存するとしても、本件建築確認処分自体を重大かつ明白な瑕疵により無効ならしめるものではない。

三  よつて、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 西内英二 高山晨)

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